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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)5284号 判決 1985年6月28日

原告

大生交通株式会社

ほか一名

被告

尾間義寿

主文

原告両名の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は原告大生交通株式会社に対し、六七万六九〇〇円およびうち六〇万六九〇〇円に対する昭和五八年八月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告丸山稔に対し、三二万〇一三六円およびうち二九万〇一三六円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告両名の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告両名の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 被告自身の運転による事故の発生

原告丸山は、昭和五七年一一月三〇日午前一時五〇分頃、原告会社のタクシー運送業務に従事し、原告会社所有のタクシー(普通乗用自動車ニツサンセドリツク、大阪五五え四一―四六以下「原告会社車」という。)に訴外松井百合子(主婦、昭和九年二月二五日生)を乗客として乗せ、大阪市淀川区西中島四丁目二番先路上(府道大阪箕面線)の西中島南方駅前交差点を青信号に従つて進行していたが、そこへ被告はその所有する普通貨物自動車(鈴木アルト、大阪四〇ち七四―一五以下「被告車」という。)を運転してさしかかり、自車前部を原告丸山運転の原告会社車の右前部および右後部に次々と衝突させ、そのまま逃走した。

(三) 窃取者の運転による事故の発生

仮に、被告が、本件事故当時、被告車を運転していなかつたとしても、被告車は、昭和五七年一一月二九日午後九時頃から翌三〇日午前一時五〇分頃までの間に、何人かによつて窃取され、その窃取者において(一)記載の運転をした結果、本件事故が発生したものである。

2  責任原因

(一) 被告は、前記日時、場所において被告車を運転し、本件事故現場にさしかかつたのであるが、本件事故現場は、信号機によつて交通整理が行われている交差点であり、本件事故当時、被告の進行方向の信号機は赤色であつたから、被告は交差点の手前で停止すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と本件交差点内に進入した過失により、本件事故を発生させた。

(二) 仮に、右主張が認められないとしても、

(1) 保管上の注意義務違反

被告は、被告車の保有者として、殊に夜間においては、保有車をガレージ等の内に駐車させ、その上車両の全ドアーに施錠をして同車両を保管し、以つて、容易に第三者がこれを窃取する等して無断運転を行い第三者の生命・身体・財産に危害や損害を与えるべき事故を発生させないようにすべき注意義務があるにもかかわらず、被告は、昭和五七年一一月二九日午後九時頃から、被告車を被告居住のマンシヨン内の駐車場に駐車させずに同マンシヨン前の路上に放置し、しかも、被告車の左右の各ドアーには施錠をしたが同車後部ドアーには施錠をせず、その上、同車のマスター・キーを同車内のダツシユ・ボード上に置き残し、前記注意義務に違反したものである。

(2) 因果関係

車両の窃取者は、当然の事ながら、窃取後、逃走或いは遊興のために同車両を運転に供するものであり、本件事故は窃取後の右運転の過程で生じたものであるから前記被告の注意義務違反と本件事故との間には因果関係がある。

(三) よつて、被告は民法七〇九条により、本件事故によつて原告両名に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 原告会社の損害

(1) 原告会社車の修理費 五二万三五〇〇円

但し、修理期間(一三日)中の代車料金一九万五〇〇〇円を含む。

(2) 業務中の事故であるため、乗客である訴外松井百合子に対して支払つた賠償金(自賠責保険金で填補されなかつた分)。 八万三四〇〇円

訴外松井は昭和五七年一一月三〇日より同年一二月七日までの間(実治療日数六日)、豊田病院にて治療を受けた。

訴外松井に対して支払つた八万三四〇〇円の内訳は、次のとおりである。

(イ) 慰謝料 三万八四〇〇円

自賠責保険と同様の計算根拠に基づき、一日三二〇〇円に実治療日数の二倍(一二日)を乗じた金額である。

(ロ) 休業損害 一万五〇〇〇円

訴外松井の事故前三ケ月(昭和五七年八月、九月、一〇月)のアルバイト等による収入総計が九万円であり、事故による休業期間を半月(一五日)として、左記計算式に拠つた。

九万円÷九〇日×一五日=一万五〇〇〇円

(ハ) 通院交通費等諸雑費 三万円

訴外松井はタクシーで通院をしていたので、タクシー代を含めて右金額を諸雑費として支給した。

(3) 弁護士費用 七万円

(4) 右(1)ないし(3)の合計 六七万六九〇〇円

(二) 原告丸山の損害

原告丸山は本件事故により頸部挫傷の傷害を受け、昭和五七年一二月一日より一〇日間欠勤し、この間生野病院において治療を受けた。

(1) 休業損害 一二万一四五八円

但し、一〇日間欠勤したための給与減額分。

(2) 昭和五八年夏期賞与減額損害 一万八六七八円

(3) 慰謝料 一五万円

(4) 弁護士費用 三万円

(5) 右(1)ないし(4)の合計 三二万〇一三六円

5  本訴請求

よつて被告に対し、原告会社は、六七万六九〇〇円およびうち弁護士費用を除く六〇万六九〇〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年八月一二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告丸山は、三二万〇一三六円およびうち弁護士費用を除く二九万〇一三六円に対する前同日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項(一)の事実のうち、被告車が被告の所有であることは認め、被告が被告車を運転していたとの事実は否認し、その余の事実は不知、同(二)の事実のうち、被告車が何人かに窃取された事実は認め、その余の事実は不知。

2  同2項(一)の事実のうち、被告が被告車を運転していたとの事実は否認し、その余の事実は不知、同(二)(1)の事実のうち、被告車の左右の各ドアに施錠したことは認め、その余の事実は否認する。同(2)および(三)の主張は争う。

被告車は商品名をスズキアルトと言い、軽四輪自動車の二ドアであり、原告両名主張の如き後部ドアは存しない。

被告は被告車の左右ドアはもちろんのこと窓およびトランクカバーにも施錠をし、エンジンキーも抜き去り自分で保持し、スペアキーのみをハンドル右横に設置されている小物入れ内側にセロテープではり付けて置いていたのみであり、管理人のいる自己のマンシヨン敷地内定位置に駐車していたのであるから、このような保管状況下にあつては、被告は被告車が盗難ないしは無断運転されることを防ぐための管理義務は果しており、保管上の過失があつたとはいえず、第三者によつて被告車が窃取され、窃取者によつて交通事故が惹起されることまでも通常予想しうるものではないことである。

3  同第3項の事実はすべて不知

4  同第4項の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

1  請求原因第1項(一)の事実のうち、被告車が被告の所有であることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証、甲第七号証の三、甲第八号証、原告丸山稔本人尋問の結果によつて原告両名主張通りの写真であることが認められる検甲第一ないし第三号証、証人横山周作の証言、原告丸山稔本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば原告丸山は、昭和五七年一一月三〇日午前一時五〇分頃、原告会社車に乗客として訴外松井百合子外一名を同乗させ、大阪市淀川区西中島四丁目二番先道路上の西中島南方駅前の信号機の設置された交差点を青色信号に従つて北進していたところ、右交差点を東から西に向つて進行してきた被告車が、同車前部を原告会社車の後部に衝突させ、原告丸山は、昭和五七年一二月一日から同年同月七日まで(実通院日数四日)通院治療を要する頸部挫傷を、同乗者の訴外松井は、昭和五七年一一月三〇日から同年一二月七日まで(実通院日数六日)通院治療を要する左右膝部、右下腿傷の傷害を受けたが、被告車はそのまま逃走したことが認められる。

原告両名は、被告が被告車を運転して本件事故を発生させた旨主張するけれども、被告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人横山周作の証言、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故の前日である昭和五七年一一月二九日友人と酒を飲み、翌一一月三〇日午前零時頃から自宅マンシヨンの近くにある和風スナツク「ひとすじ道」に行つて同日午前一時三〇分頃まで酒を飲み、右スナツクの店主が被告と同じマンシヨン八〇六号室に居住しているため、閉店後右店主と一緒に自宅に帰り床について寝ていたところ、同日午前二時頃、本件事故現場に被告車のナンバープレートが落ちていたとのことで警察官が被告居住のマンシヨンに来て事情を聞かれ、その後、被告は本件事故現場に行つたことが認められ、右事実によれば、被告は、本件事故発生当時、被告車を運転していなかつたものというべきである。

他に被告が被告車を運転して本件事故を発生させたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  成立に争いのない甲第六号証の四、被告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二、乙第七号証の一ないし三、証人横山周作の証言、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、被告は、自己居住マンシヨン、フルーレ新大阪の裏側(南側)出入口附近に被告車を駐車していた(駐車状況は、後記認定のとおり、右マンシヨンの敷地部分に被告車の三分の二が道路と平行に入り、三分の一は道路部分に出ている状態で駐車していた。)ところ、昭和五七年一一月二九日午後九時頃から翌三〇日午前一時五〇分頃までの間に、何人かによつて窃取され(被告車が何人かに窃取された事実は当事者間に争いがない。)、その窃取者において本件事故を発生させたことが推認される。

二  責任原因

1  原告両名は、被告自身が被告車を運転して本件事故を発生させたものであるから、被告は民法七〇九条により本件事故によつて原告両名に生じた損害を賠償すべき責任がある旨主張するけれども、前記のとおり被告が被告車を運転して本件事故を発生させたことを認めることはできないから、これを前提とする原告両名の右主張は理由がなく採用できない。

2  そこで、被告に、原告両名主張の被告車の保管についての過失があつたか否かについて検討する。

前掲乙第一号証の一、二、乙第七号証の一ないし三、被告主張通りの写真であることに争いのない検乙第二号証の一、二、検乙第三号証の一ないし三、検乙第四号証の一ないし一〇、被告本人尋問の結果によつて被告主張通りの写真であることが認められる検乙第一号証の一ないし三(但し、被写体が被告車であることについては争いがない。)、被告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く)および弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、昭和五六年九月頃から被告車と同種の普通軽四輪貨物自動車(スズキアルト)を所有しており、同車は、フルーレ新大阪ビル管理組合事務所の管理人佐伯勇の了解のもとに被告居住マンシヨン、フルーレ新大阪の裏側(南側)出入口附近の敷地部分に駐車をしていた。

(二)  被告は、昭和五七年九月頃、被告車を購入し、これを当時勤務していた新幹線関西整備工場に通勤用として使用していたが、右マンシヨンの駐車場は契約車両で満車であつたために、右管理人の了解のもとに被告車も右の敷地部分に駐車していた。なお、本件事故当時は、被告居住マンシヨンの敷地と道路との間に存するブロツク塀は、右マンシヨンの敷地の南端より北側約一三〇センチメートルの場所に設置されており、被告車の車幅は、一三九・五センチメートルである。

(三)  被告は、本件事故の前日である昭和五七年一一月二九日勤務を終え、午後六時三〇分頃、被告車で帰宅し、午後八時過ぎ頃にマツサージ業を営んでいる妻を仕事先に被告車で送つた後に同日午後九時頃被告車をいつも駐車している前記マンシヨン、フルーレ新大阪の裏側(南側)出入口附近の敷地部分に駐車した。駐車の状況は、前記のとおり、右マンシヨンの敷地部分に被告車の三分の二が道路と平行に入り、三分の一は道路部分に出ている状態であつた。

(四)  被告は、被告車を駐車した際、被告車の左右の各ドアに施錠し(この事実は当事者間に争いがない。)、トランクカバーにも施錠をして、エンジンキーを抜き取つて自分で保持した。なおスペアキーは、ハンドル右横に設置されている小物入れの内側にセロテープではり付けて置いていた。

以上の事実が認められ、証人横山周作の証言および被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分並びに前掲甲第六号証の四の「被告車をマンシヨンの前の路上に止めていた」との記載部分は、前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定をくつがえすに足りる的確な証拠はない。

右認定の事実を総合すれば、被告は、フルーレ新大阪ビル管理組合事務所の管理人佐伯勇の了解のもとに被告車を被告居住マンシヨン、フルーレ新大阪の裏側(南側)出入口附近の敷地部分と道路部分に跨つて駐車(被告車の三分の二は道路と平行に敷地部分に入り三分の一は道路部分に出ていた状態で駐車)をしていたものであり、駐車をするに際しては、エンジンキーをはずし、ドアを完全に施錠したものであつて盗難運転されることを防ぐための管理義務は一応果したものというべきである。

なお、原告両名は「被告は被告車を被告居住マンシヨン前の路上に放置していた」旨主張するけれども、被告は前記管理人佐伯勇の了解のもとに被告車を被告居住マンシヨン、フルーレ新大阪の裏側(南側)出入口附近の敷地部分と道路部分に跨つて、エンジンキーをはずし、ドアを施錠して駐車をしていたものであることは、前記認定のとおりであるから、原告両名の右主張は採用しない。

以上の次第で、被告には、本件事故当日被告車の保管についての過失があつたものとは認められない。

三  よつて、原告両名の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 喜如嘉貢)

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